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水曜日, 8月 26, 2009

Infection



「これからシカゴに戻るの」と彼女はニコニコ話しかけてきた。

口の中でくぐもらせながら変に抑揚ばかりが耳につくあの聞き取りづらい米語とはまるで違うそれで彼女がステイツネイティブでないことは容易に判ったし、はたして彼女の次の言葉は「でもアイルランド出身だけどね」だった。外見にまるでこだわらない様子の彼女の足元はビーチサンダル履きで、どこでもそれで歩き回るのだろう、ささくれが目立ち白人特有のシミとあわせてとても綺麗な足とは言い難い。それでもかすれてはいても彼女に合った綺麗な色のペディキュアにいくらか女性を感じなくもなかった。

格好の暇つぶし相手に居合わせたとでも思われたのか、まだ飛行機が動き出す前から私は途切れることなくコトバを浴びせかけられた。機体が動きだす頃には既に話題が出身の話から今回の旅行の目的の話題に移りつつあったのだが、そのとき客室乗務員が彼女のコトバを遮り、タイトルに「非常口座席のお客様へ」と書かれた説明書を読むよう二人に促してきた。しかし、既にその内容を熟読していた私は迂闊にもそこに書かれているいくつかの内容そらで言ってしまった。「よくご理解頂いてますね、ありがとうございます」と嫌味のないにこやかな笑顔で応えその美しい女性は行ってしまった。し、しまった!、何でもっと会話を引っ張らなかったんだ!「ん~~~、無人島に不時着した時とかはどのように対応すれば良いのでしょうかぁ~?」とか。

それから約3時間、そのアイルランド人の口が噤まれる事は無かった。

さて、私は持病のひとつに鼻炎を持っており温度変化や埃に反応するや、鼻水じゅるじゅる、くしゃみがどうにも止まらなくなる。概ね飛行機に乗ると具合が悪くなるのだが、ご多分に漏れずこの日も目が覚めるとそれは始まった。目が覚めたとき、到着まで残り飛行時間1時間という表示を見て、これは彼女のお陰で今回の帰路は大分短くなったもんだと嬉しく思ったのも束の間。ヒャッホー、ヒャッホー。ブー、ジュルジュルー。我慢しようにもこれはどうにもならない。トイレに駆け込みこれでもかと鼻水をひねくり出すのだが、どこにこんなに水が溜まってるのか鼻水道の栓は緩んだまま止まらない。そして、持病だから心配ないですよと説明する機を逸した私に彼女はハタッと口を噤んでしまっただけでなく、こちらさえ向いてくれない。

「お話できて楽しかったです」との私のお別れの挨拶に、顔を少しそむけながら手で口を覆い「こちらこそ」と彼女は小声で答え、私が通路を進むのを後ろから舌打ちしながら見つめていた。。。のだろう。
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1 Comments:

Anonymous カケル said...

何処行っても変わらないですねw

8月 27, 2009  

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